別項に記した「道光庵」の繁昌にあやかろうと、江戸のそば屋には、「庵」をつけたものが多かったが、それらの中では「萬盛庵」が一番古い屋号だと伝えられる。江戸時代にも、深川あぶみ、坊主そば、らんめん、猖々庵、薪屋、瓢箪屋などという変った屋号があったが、現在でも風変わりな屋号の店がある。式部そば、梓、福屋、長浦、増音、家族亭、御座候、大三、瓢亭、初花、水車そば、青和園、うるしや、鶴喜、松葉、晦庵、嘉司庵、一休庵、暫、羽根屋、鉄州庵、油屋、福豆屋、まる賀、三朝庵その他、変わった屋号はいろいろある。なお、東京には「尾張屋」という屋号を掲げ、うどん専門と、そば、うどん、両方を扱っている店とがある。主流は尾張の 国から江戸へ移って来たものであるが、東京浅草雷門の尾張屋のように別派もある。これは江戸の末期、日本橋に尾張屋を名乗る侠客がいたが、その流れを汲むものと言われている。